【会長出張報告】(自費)

伊豆のみほとけにお会いする「久保沙里菜と行く伊豆なむなむツアー」に参加、上原美術館企画展『伊豆民間仏めぐり』等見学(令和7年7月6日)

『伊豆民間仏めぐり』展(上原美術館・静岡県下田市)(会期:令和7年4月26日-9月23日)を拝見するために7月6日に「久保沙里菜と行く伊豆なむなむツアー」に参加した。久保沙里菜ことさりーな氏は、仏像インフルエンサー&フリーアナウンサーで、静岡放送Radio*Eastで、上原美術館上席学芸員の田島整氏とともに、「なむなむ仏像講座」コーナーを放送されている。

田島整氏は、『伊豆民間仏めぐり』企画・担当された学芸員で、田村氏が伊豆を東奔西走して各地の民間仏お呼びした。『伊豆の民間仏めぐり』展での素朴なみほとけの数々から、それはそれは並大抵でない衝撃を頂いた。

「かんなみ仏の里美術館」と願成就院を訪問してから、上原美術館に行った。お二人のご案内は、仏像の基礎知識から、最新の学術成果まで、幅広くも深くて、たいへん勉強なった。

伊豆に奈良時代の仏像があるとか、運慶が伊豆に仏像を作った背景とか、詳細に御教示頂いた。あるいは田島整氏からは、かんなみ仏の里の平安時代の阿弥陀如来坐像(平安時代)の特徴で、髭や眉に墨描があることが、みほとけの鎮座された場所が神社である可能性があるとか、あるいは久保沙里菜氏からは、願成就院の運慶作諸仏の中の不動明王が、荒々しくも肉感と肌の張りが繊細かつ生き生きとしているなど、「肌の張り」という視点でみるという、目から鱗が落ちる御教示を受けて、有難かった。

久保氏の卒論は、願成就院の運慶作諸仏の画期性を論じたもので、首席論文を取ったとのこと、卒論にはその人のすべてが詰め込まれている、ということを熱く語るご説明から実感した。また、訪問者に語りかけてくる地元の方々の優しい雰囲気にも暖かさを感じた。みほとけに見守られて、優しい心で暮らしておられる様が伝わった。

『伊豆民間仏めぐり』は伊豆の衝撃的とすら感じるみほとけが集まっていた。入口に迎えるお釈迦さまの誕生仏は、小さいながらも、「天上天下唯我独尊」のポーズが、あたかもロックスターのような特別感を出していて、お釈迦さまのカリスマ感がほとばしるかのようだった(田島氏は『きれいな仏像 愉快な江戸仏』企画展示も去年企画・担当されている)。

民間仏は、去年の「みちのく いとしい仏たち」(東京ステーショナリーギャラリー等)でも深い感銘を受けたが、思いもよらなかった発想が、素朴な造形のなかにも現れ出るさまが心を打つ。私は雲南省のふつうの人々が彫り出す木版神像呪符「甲馬子」の研究が、出発点だったから、そういう民間の凄い造形力、時には天才を覚える名もなき作者の力をよく分かっているつもりである。私が夢中になっている「日本のムーミントロル」こと肥前狛犬の簡潔かつ動かし難い造形にも一脈通じていて、こういった民間の宗教造形の世界に深く感銘を受けるのである。

感想は色々あるけれども、今後じっくり念頭をくゆらせていきたい。図録『伊豆の民間仏めぐり』を孫に読み聞かせてあげたが、全然怖くないカラフルな恰幅のよい閻魔大王さまとか、こちらも全然怖くない優しい荼枳尼天さまと飛び跳ねる狐像とか、ユニークな造形は、どこか玩具に通じる面もあり、久保沙里菜氏の率直に書かれたコメントが、読み聞かせの調子に合って、絵本としても使いたいかわいい図録であったことも嬉しかった。

謝辞:周到なご準備と詳細な御教示を賜った田島整氏と久保沙里菜氏、そして静岡放送のスタッフの方々には、この場を借りて篤く御礼申し上げます。

【告知】田島整氏には、日本石仏協会9月石仏談話室にてご講話頂きます。

9月6日(土)明治大学駿河台校舎

 演題:「石仏における聖性の表現―伊豆の仏像の事例から―」

写真:向かって左から田島整氏・久保沙里菜氏・川野

イラスト:木造誕生仏(下田市須原薬師堂・像高:14.4㎝)

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